1 名前:
yomiφ ★[] 投稿日:2013/08/07(水) 13:21:09.57 ID:???
http://mekakushidan.com/img/novel_01_img.jpg 「こんなのは見たことがない」――名古屋のとある書店に勤めている知人は、じん(自然の敵)Pの小説
「カゲロウデイズ -in a daze-」が発売された昨年5月を振り返り、その人気ぶりをこんな風に表現した。
「うちくらいの地方書店だと、普通のベストセラーは3、4日かけて売り切れるものなのに、あっという間に
中高生がやってきて、当日に売り切れてしまった。しかも、その日のうちに、買えなかった学生から予約が複数入った」
次々に学校帰りの子どもがやってくるものの、小説担当者もコミック担当者も名前を知らず、
ラノベ担当者は当時アニメ化が話題だった「ソードアート・オンライン」の店頭展開を切り盛りしている
最中だった。みな一様に、聞きなれないタイトルに首をかしげた。まったくノーマークだったのだ。
カゲロウプロジェクト(以下、カゲプロ)は2011年からニコニコ動画で連作投稿されてきた
楽曲を中心としたマルチメディアプロジェクトだ。作詞・作曲を手がけるのは現在22歳のじん(自然の敵)P。
独特の世界観を描いた物語が若いネットユーザーの間で人気を博し、昨年からはメディア展開を本格的に開始した。
「カゲロウデイズ -in a daze-」は、そんなカゲプロのマルチメディア展開の一環となる小説だ。
7月現在、3巻目まで刊行が進んでおり、既に出版部数は累計140万部を突破している。
8月末には4巻も発売予定。コミカライズも同時進行し、月刊コミックジーンは発売と同時に店頭売り切れが続出、
Amazonもすぐに在庫切れになりマーケットプレイスで高値がついた。昨年には、アニメ化も発表された。
このカゲプロのように、ニコニコ動画で話題になったボーカロイド楽曲の小説化・漫画化は、近年とみに増えている。
「実はボーカロイドの小説が売れること自体は、以前から書店員の間では知られていた。
カゲプロのように爆発的に売れた記憶はないが、何度入荷しても必ず一定期間ではけていくので、
本屋の棚にはありがたい存在だった」(前出の書店員)
今年に入ってからだけでも、「千本桜」「終焉ノ栞」「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」など、
人気楽曲が続々と小説化されている。最近では、ニコニコ動画で楽曲の人気が高まると、
「小説化希望」などのコメントが流れる光景も珍しくなくなってきた。
ときには小説化を狙っているのではないかと勘ぐるコメントで荒れることすらある。
■「悪ノ娘」から始まったボカロ小説
そもそも、ボカロ楽曲の小説化の起源は、PHP研究所から10年に刊行された「悪ノ娘」にまでさかのぼる。
「元々は、ニコ動で人気の高い楽曲だった『悪ノ娘』の絵本化を目指していました。
ですが絵本の企画が頓挫して、小説に方向転換しました。そこで、作者のmothy_悪ノPさんに
楽曲の設定資料を見せていただいたんです。すると、とんでもなく分厚い資料が上がってきて、
ほとんどシナリオに近かった。それを見てふと“このまま出版できるのではないか”と思いました」
ボカロ楽曲の小説化を数多く手がけてきた編集プロダクション、スタジオ・ハードデラックスの
編集者・鴨野丈さんは、当時を振り返る。その場で版元にmothy_悪ノPさんによる小説化を提案すると、
1カ月半後に上がってきた作品は、小説執筆の未経験者が書いたとは思えない、荒削りだが堂に入った内容だった。
「最初に、いきなり大当たりの作家を引いてしまった面はあるのだと思います。
ただ、そもそも発売前の読者の反響も大きかったです。発表直後からアニメイトなどの
専門店で話題になり、発売前に増刷も決定していましたから」(鴨野さん)
その後、B6版型ソフトカバーで1260円という、中高生には手を出しにくい価格帯の商品でありながら、
強い人気に後押しされる形で悪ノ娘はシリーズ化されていく。意外にも、読者層のメインは中高生の女の子だった。
「いまとなっては不思議ではないですが、当時は予想もしなかったですよね。
まだあの頃は、ボカロはオタクのものというイメージでしたから」(鴨野さん)
現在、悪ノ娘シリーズは累計で80万部を突破しており、昨年末からは「七つの大罪シリーズ」の刊行も始まった。
この作品を皮切りに、PHP研究所からは「桜ノ雨」「ココロ」などの人気ボカロ曲の小説化作品が
次々に発表されていくことになる。しかし、ボカロ楽曲の小説化が異例の売り上げを出していることが
知られるようになったのは、最近のことだ。
(>>2へつづく)
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1308/02/news007.html2 名前:
yomiφ ★[sage] 投稿日:2013/08/07(水) 13:24:04.06 ID:???
(中略)
■爛熟する市場と過熱する楽曲争奪戦
「悪ノ娘」の小説化などを手がけてきた前出の鴨野さんの話に戻ろう。彼は、大手出版社が本格的に参入してきた
現在のボカロ小説市場が、すでに中小の編集プロダクションが勝負するには厳しい場になってきていると語る。
そんな彼が最近手がけたのは、ボカロPとニコニコ動画で人気の歌い手と一緒に制作した書籍タイプのドラマCDだ。
「小説以外のメディアでの新しい展開も試み始めました。ドラマCDは製作コストが高く、なかなか大変な市場ですが……」(鴨野さん)
鴨野さんが危惧するのは、ボカロ小説市場に粗製濫造の兆候が見えてきたことだ。
スタジオ・ハードデラックスでは、ニコニコ動画好きの若いスタッフを交えて作品を選定し、作者(ボカロP)自らに
小説を書かせる手法をとってきた。
時には1つの作品に1年単位で時間をかけ、編集スタッフとボカロPの綿密な打ち合わせを経て小説を丁寧に仕上げてきたという。
それが最近では、月に何冊ものボカロ小説が複数の出版社から刊行される。当然、それほどの時間は制作にかけられない。
スタジオ・ハードデラックスは、楽曲を制作したボカロPが自ら執筆することを重視してきたが、最近の他社のノベル化では別のライターが執筆する例も増えている。
「やはり、この状況は不安になりますよね。読者のことが分かっている書き手さんばかりではないですし。
そもそも、最近は話題の曲が出るとすぐに小説化の話が動きますが、実際に小説にできる世界観をもった楽曲ってそんなに多くはないんですよ」(鴨野さん)
一方で、過熱するボカロ小説の市場が、近年のボカロ楽曲の潮流を取りこみ、新たな展開を見せ始めたことも見逃せない。
例えば、それはオリジナルキャラを用いた楽曲の小説化である。ニコニコ動画におけるボカロ楽曲のランキングは、
実はかなり前から大きく様相を変えており、作者独自の(ボカロのキャラの面影すらない)オリジナルキャラの物語や世界観を展開した作品が増えているのだ。
先のカゲロウプロジェクトもまた、そうした近年の作品潮流の中で生まれたものだ。この作品のノベル化を手がけた
エンターブレインの編集者に手応えを尋ねてみると、「それぞれのキャラに物語がちゃんとある」ことが読者に支持されていることを挙げ、
「それが累計140万部の部数につながっているのではないか」と印象を述べた。
その上で興味深かったのは、彼がそこにボカロ小説のジャンルとしての自立化を見ていたことである。
「ソフトウェアとしての本来の用途を飛び越え、ミクやリン・レンなどのキャラクターそれ自体がフィーチャーされているのは、
とても面白い現象だと思います。小説やコミックなどに展開され続けているのは、
ミクが『みんなにとって分かりやすいキャラクター』であることを考えると、当然だとも言えます。
一方でミクなどのキャラクターをある種のスターシステムのように使い続けるのも、そろそろ難しくなってくるのではないでしょうか。
そういう意味でも『ボカロ小説』というジャンルがだいぶ確立されてきたように感じます」(エンターブレインの編集者)
この数年でボーカロイド周辺の市場は、中高生がメインのゾーンになった。
メインストリームにまだ見出されていない若いクリエイターたちが作品をぶつけ、最も感受性の強い年代の受け手が
熱狂的な反応を返し、ネット時代にふさわしい新しい文化と感性が育ち続けてきた。
そこには、すでにオタクやサブカルのような、既存のカテゴライズには収まらない、新しい表現たちがあふれている。
過熱するボカロ小説の市場は、ある意味で市場の原理にしたがって、そうした作品たちの「感性」を取り込み、メインストリームへと解き放ちはじめている。
その先にあるのは、前出のエンターブレインの編集者が語る、こんな未来かもしれない。
「これからは、クリエイターが自分で作り出した新たなキャラクターに、ボカロソフトによるサウンドで息吹を与え、
映像やイラストでビジュアルを強調し、小説でさらに細かく描写して物語を掘り下げていく。
そんなシームレスな展開ができれば、ボカロ小説市場はさらに発展していけるのではないでしょうか」(前出のエンターブレイン編集者)
小説や音楽がつまらなくなった、売れなくなったとやかましく言われる一方で、新しい文化を取り込みながら、
中高生から強い支持を受けてきた、ボカロ小説。それは従来の小説とも、従来の音楽文化とも違う、
CGMを含めたマルチメディア展開が当たり前となった時代における、物語や小説の新しいポジショニングを示しているのかもしれない。
(了)